そろそろ普通の旅行がしたいっていう話(上)

まえがきのまえがき

多くのみなさま、はじめまして。昨年度「5泊10日の旅行はやめた方がいいよっていう話」という駄文をお読みいただいた物好きなみなさま、お久しぶりです。学部3年の小関です。今年も懲りずにぶっ飛んだ(?)旅行記をお届けいたします。タイトルの通り、今年はケニア(+α)に行ってきました。シンガポールとパリでさえあんな波乱万丈だったのにケニア大丈夫か?とお思いのみなさま、察しがいいですね。案の定波乱万丈でした。今年はケニアでの波乱万丈をみなさまに追体験していただければと思います。クリスマス感は皆無ですがそこはご愛嬌ということで。ちなみに長すぎて3部作になりました。関係各位、ごめんなさい…。

まえがき

 2024年4月上旬。2月のロンドン研修が予想を遥かに超えて楽しく味を占め、そして単身ヨーロッパ内を移動し1人でパリを観光して1人旅行という実績を作ったことで自分の能力を見事に過信した僕は今年度の体験活動プログラムのページを見ていた。僕のことをある程度知っている方ならおわかりかと思うが、僕はパリが好きだ。ヨーロッパが好きだ。今年もヨーロッパに行きたいな(そして帰りにパリ寄りたいな…)と思いながらプログラムリストをスクロールする。おっ、今年はストックホルムもジュネーブもフィレンツェもある!とワクワクしていた僕の目に入ったのは“ケニア”の3文字だった。一度はスルーした。しかし一度目に飛び込んできたその3文字は僕の好奇心という地雷を踏み抜き、脳内で大爆発を引き起こした。三日三晩自分自身に問い続けた。本当にケニアに行きたいのか?綺麗好きかつ体調を崩しやすい僕がケニアに行って大丈夫か?いくらなんでも冒険しすぎではないか?と。しかし一度燃え上がった好奇心の炎は消せなかった。実を言うと初ゼミでアフリカについてレポートを書いたこともあり、もともとアフリカにも興味はあった。そして全日程車移動かつ大学のプログラムであり、アフリカに行くとしたら間違いなくこれが一番安全な方法だろう。親との数日に渡る交渉を経て応募まで漕ぎ着け、2024年5月、僕のケニア行きが決定した。

 これは東京生まれ東京育ち、日本の自然にすらほぼ触れず、潔癖症一歩手前の綺麗好きが無謀にもケニアを訪問し、アフリカの大自然とアフリカ有数の「大都会」ナイロビ、その他もろもろの町でもみくちゃにされたお話。

0.レッツ人体改造

 いざケニアに行こう、と思ったらしなければならないことは大きく2つ。1つは航空券の手配、もう1つは予防接種を受けること。ケニアまでの道のりは長いのである。まず航空券について。当然(?)日本からナイロビまでの直行便なんてものは存在しない。そして前述のようにこのプログラムは全日程車移動であるため、参加者はナイロビのジョモ・ケニヤッタ国際空港の到着・出発時間を合わせなければならない。ということで主催者側から推奨スケジュールが共有された。…のだが、航空会社はEthiopian Airlinesだった。エチオピア関係者の皆様には申し訳ないが、正直エチオピア航空は回避したい。とはいえ到着・出発時間が推奨スケジュールとほぼ同じになる航空券を調べたものの往路がなかなか難しい。ということでフライトスケジュールは以下のようになった。往路はやむなくエチオピア航空だが帰りは天下のカタール航空に逃げることに成功したのである。

9/11(水) 21:15 東京(NRT) → 9/11(水) 23:30 仁川

9/12(木) 1:05  仁川 → 9/12(木) 6:45  アディスアベバ

9/12(木) 10:45 アディスアベバ → 9/12(木) 13:10 ナイロビ

9/20(金) 18:10 ナイロビ → 9/20(金) 23:25 ドーハ

9/22(日) 2:35  ドーハ → 9/22(日) 18:55 東京(NRT)

帰りの推奨スケジュールはナイロビ18:00発のエチオピア航空便なのでこれなら大丈夫とお許しをいただいた。そして、1人海外旅行という実績を挙げて調子に乗っている僕は無謀にも帰りにドーハで1日遊ぼうとしているのである。この点は後述ということで、とにもかくにも帰りはカタール航空にすることに成功したのである。

 航空券問題が解決したところで次の問題は予防接種。打てるものは全部打て、という両親&友人たちの助言を受け、黄熱病、腸チフス、A型肝炎、B型肝炎、破傷風、狂犬病の6種類のワクチン(しかもAB型肝炎、狂犬病は複数回接種)に加えてマラリア予防の内服薬ともはや人体改造の様相を呈している。約1ヶ月で11本ワクチンを打った。多くの方々は一度に4本ワクチンを打つ経験などないと思うので言っておくと、人間短期間に大量にワクチンを打たなければいけないときは両腕に2本ずつ打つのである。腫れたり筋肉痛っぽくなったり、さらに試験期間とまるまる被って大変だった。というか日本に生きていてこんなワクチン打たないでしょ…というものばかりで困惑。狂犬病3回も打たないといけないの何なの???ただ狂犬病のワクチンを打ったことで日本のような狂犬病清浄国は本当に稀だという今後役に立つのかわからない知見を得ることはできた。とりあえず今まで公衆衛生に携わってこられた先人たち&現役の方々に感謝。

1.ደህና ሁን ቶኪዮ

 さて、9月11日、夜。わくわくと不安が入り混じった複雑な感情で車窓を眺めながら空港へ向かう電車内。外務省領事局からケニアの注意情報が届いた。どうせいつものデモだろう…と思ってさらっと読み始めると、どうやらインド企業によるジョモケニヤッタ空港のリース契約に反対する従業員がストライキをしているらしい。ほうほう。その流れで空港が閉鎖されているらしい。ほうほ…う?ん?空港閉鎖?大丈夫なのこれ?アディスアベバからナイロビの便欠航になったらアディスアベバで立ち往生にならない?と心配してもどうにもならない。エチオピア航空のカウンターで何事もないかのようにナイロビまでですねーとしれっと荷物預けも終わり、出国。僕は東京千葉を発ち、ውክፔዲያ – የኢትዮጵያ አየር መንገድ 673便で一路アディスアベバへ…と言いたいところだが、ソウル経由の便なのでまずは仁川へ。ちなみに小見出しはエチオピアの公用語であるアムハラ語で”Goodbye, Tokyo”、1行目は”Ethiopian Airlines 673”になるらしい。これでご想像いただけるかと思うがエチオピア航空機内のメイン言語はアムハラ語、ということで安全のしおりも、機内誌も、案内表示も英語が併記されているとはいえゲエズ文字(というらしい)で溢れている。何もわからなさすぎて逆に面白い。…と思いつつ、アルファベットを使う国々の人から見れば日本語もこんな風に見られているのかもしれないとも思った。馴染みのない文字に囲まれ、英語表記が必ずしも十分ではなく現地の人間はあまり英語を話してくれない日本という地を訪れる外国人観光客も楽しそうにしてはいるが実は困惑していたのだろうか。観光立国を目指すのであれば言語面の訪日客サポートがもっと必要なのでは…などなど考えているうちにソウルに到着。ちなみにエチオピア航空はエチオピアのフラッグキャリアでありれっきとしたFSCなので成田-仁川間でも機内食が出る。今時“beef or chicken?”という一昔前のテンプレを聞くことになるとは思わなかった。結構たくさん飛行機に乗っているが初めて聞いたぞ?味はノーコメントで。相変わらず僕は機内食が苦手なのでエチオピア航空がいまいちということではないのではないか、とは付言しておく。

さて、ソウルは経由地とはいえ一度降機する必要がある。一昔前のアンカレッジみたいなものである。ということで入国はしないがソウル上陸。もう15年近く前になるが人生初の海外旅行でソウルを訪れて以来のソウル。あまり時間もなく空港内のごく一部しか見られなかったが韓国は日本語表記もあるし外国とはいえ安心感がある。ほどなくしてそんな安心できる東アジアを離れ、一路アフリカ大陸・エチオピアへ。仁川を出てすぐまた機内食が出るのだが、今度は“chicken or fish?”だった。僕はfishにしたので気づかなかったが、同じ便に乗っていた人曰く成田から仁川のchickenと仁川を出てすぐのchickenは同じものだったらしい。エチオピア航空、流石すぎる。そんなこんなで11時間超のフライトが始まった。ちなみに成田を出てすぐ気づいたことだが、シートモニターはタッチパネルが反応しない。というか見たことのない小ささと分厚さだった。ということでただただ寝た。それと隣の席のエチオピア人の祈祷師(?)と仲良くなった。アディスアベバ到着直前の機内食は選択の余地なく欧米風の朝ごはんだった。味はノーコメントで。そして無事アディスアベバに着陸するとタッチパネルが反応しないシートモニターに突然Happy New Yearと表示され、アフリカンな音楽とともに新年のお祝い的なビデオが流れ始める。アムハラ語が分からないので詳細はわからないが、どうやら2017年の到来をお祝いしている。どういうこと???今2024年だし9月だが???そういえばシートのヘッドレストカバーもHappy New Yearと書いてある。訳がわからないまま降機。大型機なのに沖止めだったので複数台のバスに無作為に詰め込まれ、それぞれのバスの到着地がちょっと違うというエキサイティングなイベントと全員靴まで脱がされるやけに厳しいトランジットの保安検査を経て空港内へ。すると至る所にHappy Ethiopian New Year 2017の文字が。エチオピア暦なるものがあるのか?と調べてみると本当にあった。イエスの生誕年の解釈違いその他もろもろの要素によりグレゴリオ暦とちょっとずれているらしい。世の中思ってるよりいろいろと暦があるんだな…と思いながら空港散策。東アフリカ随一のハブ空港というだけあり、お店自体はある程度あるし空港内も広い。めぼしいお店はなかったが。せっかくエチオピアに来たのならコーヒーが飲みたい、ということになりKaldi’s Coffeeといういかにもな名前のカフェへ。3人でカプチーノを頼んだのだが、どう考えてもチャイっぽい飲み物が出され、レシートを見てもなんたらteaと書いてあった。謎。ちなみにこの店はエチオピアの通貨を持ってないなら米ドル現金で払えと言ってくる店で、カードで払いたいと言っても無理だと言われ、せめてレートを調べたいと思っても場所の問題なのか空港のWi-Fiが通じず、店員も笑顔でNo Wi-Fi!と豪語する始末で、おそらくぼったくられた。エチオピアに行く方はご注意を。

 そんなこんなでトランジット時間を潰し、ボレ国際空港を経ち一路南へ。アディスアベバからナイロビという多くの日本人は乗ることはないであろう路線だと思うとちょっと楽しい。なぜか最新鋭機がアサインされており、シートモニターも大きくタッチパネルの感度も最高だった。機材の当たり外れの差が大きすぎる。さて。エチオピア航空はFSCなのでエチオピア-ナイロビの距離(成田-仁川くらい)でも機内食がでる。お決まりの“beef or chicken?”が来たので消去法でchickenを選んだ。まあまあ食べられた。ふと振り返ってみると、エチオピア航空の機内食は美味しいとは言わないがそこそこ食べられはした。beefとかfishとかchickenで案内されることに象徴されているとおり、おそらく毎回の料理は特別な味付けや調理がされているわけではない。肉や魚に火を通し、塩なりトマトソースなりで味付けをしているだけである。すなわち他の機内食のように味付けや調理方法に拘っているがゆえに風味がダメ…ということはなく、美味しくも不味くもない普通に食べられはする料理ができあがっていたのである。良くも悪くも素朴な味なのだろう。機内食が片付けられるとドリンクがサーブされることもなくただただ着陸まで放置される。とはいえフライトマップと景色を見ているだけでも湖が見られたり赤道を越えたりと面白いフライトではあった。

3.Karibu Kenya!

 ゲエズ文字に囲まれること実に20時間。ついにアルファベットの地に到着。スワヒリ語わからないけど安心感がすごい。ストのせいでスタッフがいないようで、労働争議権がない公務員である入国管理官が空港業務を回しているらしく入国までとても時間がかかった。公務員に労働争議権を認めないことの恩恵をこんな形でうけるとは…。なぜかスーツケースピックアップ後にも手荷物検査があり、China Aidと大きく書かれたX線検査機に手荷物を通し、モニターを見てすらいない職員にOK!と言われて無事ターミナルを出る。お迎えの車に乗り、早速最初の訪問地である日本大使館へ。ロンドンでも大使館に行ったことがありそのときはぬるっとセキュリティも入館手続も済んだのでそのノリでいたのだが、いきなりいかついゲートが現れて僕の大使館のイメージがいきなり覆された。スマホすら持ち込みできず、パスポートだけ手に持っていかついゲートの前でいかついケニア人の警備員さんに身体検査をされてから敷地内へ。その後もセキュリティチェックが何度もあり大変だった。VIVANTの日本大使館のイメージそのままだった。聞いたところによると以前ナイロビでアメリカ大使館が爆破?されたことがあり、比較的安全なエリアに移転した上で警備が厳しくなったらしい。大使館ではケニアの歴史や現状についてご説明をいただいた。

大使館を後にした我々一行は近くのショッピングモールでケニアのSIMを購入しmpesaというオンライン決済サービス?を使えるようにセッティングした。しくみはよくわからないがケニア版paypayのようなものだ。たぶん。ただしpaypayよりもmpesaはありとあらゆるところで使える。スーパーでもショッピングモールでもお高めのレストランでも胡散臭い個人商店でも、本当にどこでも使える。さらに個人間送金もできる。こういうところは日本よりはるかに進んでいるのか…?と思いながら初日は終了。これまたいかついゲートがあるホテルへ。今後のケニアのホテルは大体そうなのだが、部屋の内外どこかに存在するスイッチをオンにしないとお湯が出ない構造になっており、そんなことを知らない僕は待てど暮らせどお湯が出ない水シャワーでも「ケニアならこんなものか〜」と思いながら耐えた。ちなみにケニアは標高1,800mくらいあるのでだいぶ涼しい。水シャワー辛かった…。部屋自体は西欧基準なら1.5つ星くらい(適当)の内装だった。当時の僕は部屋に虫がおらず、壁も床も一応清潔でベッドメイキングも最低限されているこのホテルのありがたみにまだ気づいていなかった。ディナーはよくわからないけど美味しいスープとなんかとんでもなく美味しいピラウ(ピラフみたいなもの)と揚げたバナナどその他諸々があり、普通に食べられて失礼ながら驚いた。

と、まだケニアに着いたばかりですが分量的に今日はここまで。明日からいよいよケニア編です!お楽しみに!