こんにちは、こづかです。TEA MARKET Gclefさんから今年発売されたダージリン紅茶の感想を書きます。今回の前編では、今年Gclefさんから出たダージリン紅茶のうち、シンブリ農園を除くもの(セカンドフラッシュはシーヨック、セリンボン、サングマ、プッタボン農園のもの、ファーストフラッシュはサングマ、プッタボン農園のもの)の感想を書きます。後編では、シンブリ農園のものの感想を書きます。
※発売されたすべてのダージリン紅茶が網羅されているかはわかりません。ご承知おきください。
※あまり紅茶について詳しくない人が読んでも分かるように、専門的な用語には解説を入れているので紅茶に詳しい人にとっては冗長に思える部分があるかもしれませんがご承知おきください。
※前半部分はほぼダージリン地方とその茶栽培の歴史の解説です。飲み比べの感想が読みたい人は〇〇まで読み飛ばしてください。
ダージリン県はインドは西ベンガル州の県の一つであり、ヒマラヤ山脈のほぼ南端に位置します。ほぼ南端とはいっても標高は2000mほどあるようです。
18世紀、シッキム王国の一部であったダージリンは、ネパールを中心としてシッキム王国の西部も支配していたゴルカ勢力と英国の間に発生したグルカ戦争の結果として、ネパールから東インド会社に割譲されます。
英国支配下では、ダージリンは療養地としての価値を見込まれていました。東インド会社にダージリンの開発を任されたアーチボルド・キャンベルはダージリンの街としての整備を進めるかたわら、経済植物学の知見からチャノキの栽培を試みます。キャンベルが仲間と共にダージリンでチャノキを実験的に栽培する中で、アッサム種よりも中国種の方がよく育つことがわかりました。同じ北東インドでありながらも低地のアッサムで見つかったアッサム種よりも中国種の方が高地のダージリンに適しているのでしょう。現在でも、ダージリンといえば中国種のイメージがありますね。
ダージリンより南方の低地であるドアーズ・テライ地方でのアッサム種の栽培が始まるのと同時期に、ダージリン・ヒマラヤ鉄道の建設が開始されました。紅茶と療養客の輸送を目的として1881年に開通したこの鉄道は、先述のドアーズ・テライ地方に位置し、標高100mのニュー・ジャルパーイーグリー駅を出発し、標高2000mを超えるダージリンまで続く登山鉄道です。ユネスコの世界遺産にも登録されたこの登山鉄道は、曲がりくねった山道を通り抜けるため狭軌が採用され、小型の車体は観光客に愛されています。
一般的にダージリンで生産される紅茶は、比較的発酵が浅く、ファーストフラッシュ(春摘み)では若葉や柑橘を思わせるフレッシュな香りが特徴です。セカンドフラッシュ(夏摘み)では、マスカテルフレーバーと呼ばれるマスカットのような爽やかな香りが特徴です。マスカテルフレーバーは、主に有機農法を行うことで発生するウンカという虫が茶葉を噛み、茶葉が免疫反応を起こすことで分泌される成分によるものと言われています。オータムナル(秋摘み)はまろやかで、甘い香りが特徴的です。また水色(茶液の色)はファーストフラッシュは黄色とオレンジの中間色、セカンドフラッシュは比較的明るいオレンジ色、オータムナルはさらに明るいオレンジ色です。最も濃いオレンジ色を呈するセカンドフラッシュでも、低地のアッサムやドアーズの赤茶色よりかは色が弱いです。
しかし、ダージリンで生産される紅茶の中でも特に1stフラッシュ、2ndフラッシュは農園ごと、ロットごとの違いが際立ちます。
また、ダージリンに似た味わいの紅茶が飲みたい場合には、標高も近く、地理的にも近い位置にあるネパールやシッキムの紅茶がおすすめです。また、ダージリンと同じ北東インドの産地であるドアーズやテライ、アッサムではミルクティー向けの大量生産方式であるCTCで大部分の紅茶が生産されていますが、ストレートティー向けのオーソドックス紅茶も日本で手に入れることができます。甘い香りの紅茶が好きな方にはドアーズやテライ、アッサムの紅茶もおすすめです。さらに、ウンカにより発生するマスカテルフレーバーや蜜のような香りが好きな方には台湾の蜜香紅茶や日本の井村園さんの紅茶がおすすめです。
さて、いよいよ本題のダージリン飲み比べです。
普段お茶の感想をあまり読まない人向けの説明ですが、感想で、「甘み」と書いている場合には五味の「甘み」を感じられている訳ではなく、あくまで「甘い香り」のことです。また、グリニッシュとは若葉を思わせる爽やかな香りや苦味のことを指します。
‘24 ダージリン2ndフラッシュ シーヨック農園(有機茶葉使用)FTGFOP1 Muscatel
カップに口を近づけた瞬間に分かるマスカテルフレーバー、紅茶らしい適度な渋みが特徴。また、穀物を思わせる焙煎したようなドライな香りと桃のような香りがあります。
‘24 ダージリン2ndフラッシュ セリンボン農園(有機茶葉使用)FTGFOP1 Vintage
先ほどのシーヨックにも強いマスカテルフレーバーがありましたが、こちらのマスカテルフレーバーはよりパワフルです。若葉やハーブを思わせるグリニッシュな香りと苦味がマスカテルフレーバーとフルーティーな甘い香りを引き締めてくれます。課題に向き合いたい時や朝などにシャキッと気合いを入れたい時に飲みたいお茶です。私は一番好きでした。
‘24 ダージリン2ndフラッシュ サングマ農園 FTGFOP1 Muscatel
第一印象としては、シナモンやクローブ、ライチやデーツを思わせる香りがします。中国茶の妃子笑に似ている気がしました。
桃のようなフルーティーさと形容してもいいと思いますが、そこに鉄のような香りが加わっています。また、後味にも黒糖を思わせるミネラル感があります。全体的にミネラル感が強いお茶だと思います。商品名にMuscatelと入っているのが不思議でしたが、冷めてくると徐々にマスカテルフレーバーが認識できるようになってきます。
‘24 ダージリン2ndフラッシュ プッタボン農園 FTGFOP1 Muscatel
レモングラスのような爽やかなハーブの香りと、シーヨック農園のものに通づる穀物のような香り、それからわずかに中国の祁門(キームン)紅茶を思わせる蘭のような香りがあります。こちらも初めはマスカテルフレーバーが弱めに感じられますが、サングマ農園のものと同様、冷めてくると徐々にマスカテルフレーバーが認識できるようになってきます。
‘24 ダージリン1stフラッシュ サングマ農園 FTGFOP1 Flowery
ライムのような酸のある香りと苦味が特徴的です。口内に広げると甘みやまろやかさが広がります。グリニッシュで典型的なダージリン1stのお茶だと思います。
‘24 ダージリン1stフラッシュ プッタボン農園 FTGFOP1 Flowery
カップに移したタイミングで柑橘を思わせる香りがしました。先ほどの同じ農園のセカンドフラッシュに通づる穀物のような香ばしい香りがします。
どれも美味しかったですが、こうして並べてみると、中国茶に似た香りを持つものや、典型的なマスカテルフレーバーを持つものなど、セレクションのバランスが考えられているんだなあと思いました。また、商品名に「有機茶葉使用」と書かれている二つは特にマスカテルフレーバーが顕著だったのも示唆的だと思います。
次回の後編では同じ農園のロット違いのものを飲み比べる訳ですが、果たして違いが区別できるのでしょうか。乞うご期待。