はじめに
こんにちは。本日の記事を担当する学部1年の竹内です。
街は徐々にクリスマスムードに染まり始め、キラキラしたイルミネーションやワクワクする空気が広がっていますね。
そんなクリスマスシーズンにちなんで、本日はちょっと変わったケーキの話をお届けします。
その名も「漆黒のケーキ」!
見た目もインパクト抜群のこのケーキですが、果たしてどんな科学が隠されているのでしょうか?ぜひ最後までお楽しみください。

上の写真はBLVCK PARISというブランドの「漆黒のケーキ」。昨年の冬に渋谷スクランブルエアにて初登場したそう。
漆黒の鍵はズバリ「竹炭」
漆黒のケーキとはその名の通り、真っ黒なケーキです。
そしてその漆黒を生み出しているのが、実は「竹炭」なのです。
竹炭とは、空気を完全に遮断した状態で竹を超高温で加熱して作られる炭のことです。
酸素がない環境では、炭素が酸素と結合して二酸化炭素になることができません。炭素がそのまま霧散することなく残り、竹炭になります。木炭も同様の仕組みで作られています。
次の写真は、白いクリームにブラックココアを混ぜたもの(左)と竹炭パウダーを混ぜたもの(右)の写真です。
竹炭パウダーを混ぜたほうが、ブラックココアを混ぜたときよりも漆黒に近づいていることがわかりますね。
このように「竹炭」を混ぜることで、より漆黒に近い色を演出することができるのです!
では、どうして竹炭を混ぜると漆黒になるのでしょう?
その秘密は、なんと竹炭の独特な結晶構造である「グラファイト構造」にあるのです!
グラファイト構造と光吸収
グラファイト構造は黒鉛にも含まれる、炭素原子が平面的に六角形を成して、層状に積み重なった構造のことを言います。竹の繊維は非常に密度が高く、高温で炭化されることで木炭より多くのグラファイト構造を含みやすいと言われています。
「物体が黒色である」ということを化学的に言い換えると、「物体があらゆる波長の光を吸収する」となります。結論から言えば「グラファイト構造では多くの原子間で電子が共有されることで連続的なバンドが形成され、またバンドギャップが非常に小さいためどんな波長の光も吸収する」ということになります。
…難しいですよね。
順を追って説明していきますので、ご安心ください。
と言いたいところなんですが、これをちゃんと説明しようとすると量子論の話になり、非常に長くなってしまいます。なのでここでは細かい話は省き、重要な点だけをかいつまんで説明しますね。
ご存じのとおり、原子は原子核とその周りに存在する電子で構成されています。そして、この電子が持つエネルギーは離散的な値(とびとびの値)しか取りません。(下図の横線)
また、電子が励起して高いエネルギー状態に遷移することで、各エネルギー準位の差に対応するエネルギーを持つ特定の光のみが吸収されます。
例えばりんごが赤く見えるのは、りんごの表面の粒子に含まれる電子が励起することで赤色以外の光を吸収するからです。
一方で、原子が他の原子と結合すると、一つ一つのエネルギー状態が二つに分かれます(結合性軌道と反結合性軌道)。さらに、多数の原子と結びついて電子を共有(π電子系)すると、これらのエネルギー状態がさらに細かく分割され、最終的には伝導帯と価電子帯という二つのバンドを形成します。
この結果、電子が価電子帯から伝導帯に遷移する際のエネルギー差は、より広い範囲の値を取ることが可能になります。
さらに、グラファイト構造の場合は、電子が存在することのできないエネルギー状態である禁制帯の幅「バンドギャップ」(上図)が非常に小さいことが知られています。(つまり、価電子帯の最大値と伝導帯の最小値の差が無視できるくらい小さい。)
これらのことから、グラファイト構造はどんな波長の光でもそれに対応するエネルギー準位の差分が存在して、その光を吸収することが可能だと言えるのです。
また、竹炭にはアモルファス(非晶質)的な部分も存在し、これも様々な波長の光を吸収することに貢献しています。
…かなり説明を端折っているのですが、伝わりましたでしょうか?
「電子を共有するおかげで、どんな波長にも対応するエネルギー準位差がとれるよ」という雰囲気だけでもご理解していただけたら幸いです。
終わりに
途中難しい話を挟んでしまいましたが、要するに「漆黒のケーキの漆黒には、竹炭のグラファイト構造とエネルギー準位の科学的な性質が大きく関係しているんだよ、面白いね!」ということです。
より正確に理解されたい方には、バンドギャップと光吸収に関する文献を参照していただくことを推奨します。
ちなみに、NGKサイエンスサイトに「漆黒のケーキ」のレシピが掲載されています。
https://site.ngk.co.jp/delicious/no35
お菓子作りに自信のある方、ぜひ挑戦してみては!?
最後までご覧いただきありがとうございました。拙い文章で申し訳ありません。
まだまだ寒くなりそうですし、皆様体調には十分お気をつけください…
では、良いクリスマスを〜。
参考文献
“スイーツ・イン・ザ・ダーク 漆黒ケーキ”, NGKサイエンスサイト, https://site.ngk.co.jp/delicious/no35/, (参照:2024-11-25)
“様々の半導体”, 奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 物質創成科学領域 光量子物性研究室, 2024-6-10, https://qps-lab-naist.labby.jp/blog/detail/2945, (参照:2024-11-23)
“なぜダイヤモンドは透明で、木炭や鉛筆芯は黒いのか?同じ炭素からできているのに?”, ゆっくりラボラトリー, 2024-1-19, https://www.youtube.com/watch?v=00FUHQVDfP4, (参照:2024-11-27)